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お盆休みも勉強!「生態系に現れる数学」

お盆ということで

この記事はあくあたん工房お盆休みアドベントカレンダー4日目の記事です.生態系に現れる数式について語ります.お盆はあの世とこの世の交わりができるので,生態系と数学の交わりもついでに語ることにしました.なんだか講義臭くなりそうですが我々B4以上の人間にお盆休みなどない.勉強しなければならない.勉強じゃ.

イントロ

生態系に現れる数学というテーマですが今回取り上げたいのは理系学生の嗜みこと微分方程式です.実は生態系をモデル化した時に,微分方程式は様々な形で現れてきます.そんな生態系と数学の世界を少しだけ垣間見ることにしましょう.

仲良く振動?

それでは始めましょう.しかし急に変な見出しですね.仲良く振動とありますが,振動するのはある生物種の個体数のことです.つまり時間経過に対して個体数が振動をするというものです.では仲良くとは一体どういうことでしょうか?実はある地域における捕食-被食の関係にある2種の生物種が同じような周期(位相差は考慮しません)で時間経過に対する個体数が振動している関係が現実に見られているのです.これは直感的にはどう考えられるでしょうか.次で見ていくことにしましょう.

密度効果

かなり条件を絞った形で,生物個体群において捕食者Aと被食者Bについてのみ捕食-被食の関係が成立しているとしましょう.つまり,「AはB以外の生物種を捕食することはなく,BはA以外の生物種に捕食されることはない」という状況を考えます.

AはBを捕食し,その個体数を増やします.さてここである一定数以上に個体数を増やしたAにとってある問題が発生します.生物種Aはその個体数を同じ区画において増やしたため,種内で餌(ここではB)を求めて競争が発生することになります.競争の結果,餓死するAの個体も現れるでしょう.結果として,増えたはいいが個体同士の餌を巡る競争によって個体数を減らすことになります.これは密度効果と呼ばれる現象の負の側面に該当します.同一地域における同一種の数が増えその地域における密度が高くなった結果起こったことというわけですね.ちなみに,この密度効果ですが餌に限って起こる問題というわけではありません.ある地域で個体数を増やしたため,排泄物などもその地域に増えて結果的に環境の悪化が起こり住むのに不適な環境となります.

またここで考えないといけないことは,被食者Bの個体数はAの個体数の増加に伴って減少します.結果としてこれはAにおいて上記の種内の競争を加速させます.これによって被食者Bの個体数が減少したため捕食者Aの中で餓死するものが現れ,数が減少するということがおきるわけです.

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捕食-被食の流れ

もう少しはっきりと言い換えてみましょう.これまでの考えから「被食者Bの個体数の増加に追随して捕食者Aの個体数も増加し,被食者Bの減少に追随して捕食者Aも減少する」という見方もできます.さて,ここまで言い換えた段階で「なんだかこれってモデル化できそうな関係じゃない?」と思った方もいらっしゃるでしょう.とても鋭い直感をお持ちです.それでは,次でその答え合わせをしましょう!

ロトカ・ヴォルテラの方程式

ロトカ・ヴォルテラの方程式という式が存在します.実はロトカ・ヴォルテラの方程式と言った時に候補となる式がいくつかあるのですが,ここでは「捕食-被食関係にある2種の生物種の個体数の増減について求められる式」を考えることにします.

まずはもっとも単純な状態から考えます.ここで捕食者の数をP,被食者の数をNで置くこととします.それでは考えていきましょう.

被食者にとって捕食者がいないとき単純に増加します.この増加率をrとします.すると,単位時間あたりで指数関数的な増加をするので,


\frac{dN}{dt}=rN

となります.

では捕食者はどうでしょうか.捕食者の場合は,被食者がいない場合,当然餓死しますね.こちらも時間あたりで指数関数的になり,


\frac{dP}{dt}=-qP

となります.

ここまでは単純な状態を考えましたが,被食者の世界に捕食者を,捕食者の世界に被食者を登場させましょう.するとどうなるでしょうか.捕食者と被食者が遭遇した時に数の変動が起こると考えると,単位時間あたりの遭遇率は捕食者の数と被食者の数の積に比例しそうです(ここ直感的に分かるでしょうか?).捕食効率を \alphaとすると,被食者の式についてこれらを考慮した項が加わることになります.


\frac{dN}{dt}=rN-\alpha NP

これで被食者についての立式は終了です.

捕食者ついては,捕食効率と捕食後の増加率は必ずしも一致せず別の係数がかかることになります.これを食べた餌個体あたり fという率で一個体の子を産むとすると,


\frac{dP}{dt}=f\alpha NP-qP

となります.

さて,これで捕食者についても立式が終了です.2つの式を並べてみましょうか.


\frac{dN}{dt}=rN-\alpha NP \\
\frac{dP}{dt}=f\alpha NP-qP

簡単なモデルですがなんとなく直感に沿った式になっているのではないでしょうか.

ではこれを解くとどうなるでしょうか.その結果を ロトカ・ヴォルテラの方程式 - Wikipedia からお借りします.

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ロトカ・ヴォルテラの式の解の一例

見事に周期的な変化を2種の曲線が描いていることが確認できました.

現実はどうなのよ

いやいや!こんなん式の上だけの話じゃん!となる方もいらっしゃるかもしれません.しかし冒頭でお話しした通り,このような関係が実際に見られているのです.1845年から1935年までのカンジキウサギとカナダオオヤマネコの毛皮捕獲記録から推定したものですが以下のような個体数変動が見られています.これら2種は捕食-被食の関係にあります.

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個体数変動の実例
(こちらもロトカ・ヴォルテラの方程式 - Wikipediaからお借りしています)

結構綺麗な振動であることが分かるかと思います.また,実験室環境において,アズキゾウムシとコマユバチにも同様の振動が観察されています.つまり現実にも起こっている現象なわけですね.と同時に,ここでモデル化したことで説明をつけられたという事実の重要性が浮かびあがります.

モデル化すること

物理においてはよく聞く「モデル化」の重要性がお分かりいただけたでしょうか.我々は複雑な現象や説明したい現象を前にした時に,もっとも簡単な場合から枝葉をつけてモデルを構築しその振る舞いを観察することで仮説の正しさを検討することがしばしばあります.こうしたモデル化の考えは非常に重要であると言えるでしょう.そこには必ずといっていいほど数学が絡んできます.数学をやれと言われる源流はここにもあるのかもしれません.

おわりに

さて,楽しんでいただけたでしょうか.今回は短い記事ですが捕食者-被食者のモデルについて生態系と数学の関係を見ていきました.実は,紹介したロトカ・ヴォルテラの方程式は単純すぎるという批判があり,より複雑化した捕食者-被食者の関係にとどまらない競争者同士のモデルが登場することになります.これも簡単に説明できる面白いモデルなので興味がある方はぜひ調べていただければと思います.それでは.